島根県で活躍する2名の女性経営者に経営者としての思い、地元でのやりがい、
チャレンジしていることなどそれぞれ女性ならではの視点を交えてお話を伺いました。

有限会社白石家
取締役社長 内藤優子さん
名湯・玉造温泉にある享保元年(1716年)創業の老舗旅館。美肌の湯として有名な玉造温泉とともに、地産地消にこだわった山海の幸が味わえる。近年は女性限定の色柄豊富な「花浴衣」の無料レンタル、日本庭園を舞台にした雲海の演出、山陰の絶景のプロジェクションマッピングなど、新感覚のサービスが好評を博している。
夫から受け継いだバトン
たくさんの人に支えられ
走り続ける
縁あって白石家に嫁ぎ、夫が切り盛りする当館で女将として勤めてきました。2015年に夫が急死し、引き継ぐ形で取締役社長に就任。スタッフや同業者の皆さん、地元の方など、皆さんに支えられ、学ばせてもらいながら今日まで続けています。
かつての玉造温泉は団体旅行のご利用が中心でしたが、徐々に個人旅行の時代にシフト。生き残るためには大胆な変化が必要でした。そこで、個人のお客様、特に女性をターゲットにした宿へと転換。新しいチャレンジを重ねています。

現場の声に耳を傾け、
より良いおもてなしを
チームでつくる

当館のサービスの多くは現場で生まれたアイディアです。例えば目玉の一つである「花浴衣」に付随するサービスは女性スタッフの発案。「はだけないように腰紐もプラスしたい」「古い浴衣をシュシュにリメイクし、袖上げなどに使ってもらおう」「浴衣に合うバッグも貸し出そう」…。一つ一つを練り上げて形にし、お客様に喜んでいただいています。
お土産のポップや季節の飾りなど、おもてなしの工夫は随所に。理系の学部を卒業した従業員が、夏休みにお子さん向けの科学実験教室を企画したこともありました。
オリジナルカクテルを提案したスタッフも。ワイワイと試飲会をしてブラッシュアップしました。みんなで意見を交わしてより良いサービスを考えるのも楽しいひとときです。
私はどんな提案も聞くようにしています。スタッフにはやりがいを持って働いてもらいたいですからね。その代わり、「言い出したらやり切ること」が決まり。失敗したらその時はその時。結果を放り出さず、分析して次の糧にするように伝えています。
お客様を幸せに
するために、
スタッフが幸せに
働ける環境を

昔から宿泊業は“たすきがけの中ぬけ勤務”でした。例えば今日が休日だとしたら、午前中まで働き、午後から翌日の午前中まで休み、昼過ぎからまた出勤、という体制。これには「長く続けられない」「体がつらい」という声が多く…。
そこで働き方を改革。13時から22時と6時から14時のシフト体制にしました。朝食はお膳からビュッフェ形式に変更。その分正社員を忙しい午後シフトの時間帯に集中しています。
また、結婚や子育てなどで生活スタイルが変わり日中勤務を希望する場合は、事務所やフロントなど、夕方までにシフトアップできる部署に異動できるようにしました。状況が変わればまた別の部署に変われます。キャリアを止めることなく生活と両立でき、多様な部署を経験することでマルチなプロフェッショナルになれます。
お客様に幸せなひと時をご提供するには、スタッフが幸せでなければいけません。やりがいも働きやすさもある環境を、引き続き広げていきたいです。

株式会社必ず楽しい
代表取締役 CTO 高橋朋恵さん
デジタルツールを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)コンサルティングを行う。ビジネスチャットサービスの運営会社やマーケター、デザイナーなど他分野のプロフェッショナルと連携し、ニーズに合わせた業務改善をサポート。「地方から日本のGDPを上げる」を目標にDX化支援やSNSマーケティング支援などを提供している。
始まりは、
「どこで働きたいか」
ではなく
「何がしたいか」
私は島根で生まれ育ち、大学も島根。大学時代に24のアルバイトをこなし、サービス業の魅力を知りました。卒業後は旅館業の接客、観光ガイド、営業と複数の業種を経験。2020年に退職をした際、ふと足を止めて考えました。「どこで働きたいか」、ではなく「何がしたいか」という視点で自分を見つめ直してみたんです。
私は島根で働きながら、たくさんのステキなお店や企業に出会ってきました。そんな中で感じていたのが「もったいない」。魅力があるのに発信できていない、ポテンシャルを発揮できていない。このままでは地域全体が「もったいない」……。その状況を変えたいと思い立ち、会社の設立を決めました。

人間じゃないと
いけないことを、
人間が頑張れるようにする
独自のDX化

当社が目指すDX化は「人間じゃないとできないことを、人間が頑張れるようにする」です。
私は、仕事は「その人でなければいけない」「その人でなくてもいい」「人間でなければできない」「人間でなくてもできる」に分けられると考えています。
例えば事務職の人が、タイムカードの数字をExcelに入力する作業に何時間も取られているとします。それは他のシステムで代替可能な「その人でなくてもいい」「人間でなくてもできる」仕事。私はそんな仕事をなるべくお金をかけずに改善し、デジタルツールを入れた方が良い部分があればDX化を提案します。改善が進むと、旧来の業務に従事していた人は別の分野に注力できるように。人に感動を与えるような「その人でなければいけない」「人間でなければできない」仕事で羽ばたけるかもしれません。
そうなると企業価値が上がり、賃金アップにもつながります。働ける時間・場所に制約がある人や障害のある人なども、生み出せる価値が高くなればベースアップの可能性が広がるでしょう。私はそんな好循環を目指しています。
島根にいながら全国の
企業・技術者と連携し、
地域に役立つ仕事を

「必ず楽しい」は島根にいながら全国のデジタルツールの会社やマーケーター、デザイナーなどとチームを組んでコンサルティングを行っています。
私の役割は顧客とチームの間で指揮を執ること。デジタルツールに不慣れな人はDX化に抵抗感を抱きがちです。地方の事業者は都会からITの人が来たぞ、となると分からない、横文字だらけ、怖いと思う方も多いと感じています。私はそんな顧客に地元目線で寄り添い、専門用語やツールの使い方を噛み砕いてお伝えし、技術者とつなぐ相談役になっています。
自社のビジネスモデルを他県で実践してもらうプロジェクトも始めました。地方の仕事を変えることで、日本のGDPを上げていければと思っています。